VOL.6IconHINDUSTANI MUSIC TERMS
[2019.10.21/用語解説&コラム]
ラーガ&ターラ!
いまこそ知りたい☆インド音楽用語と基礎知識

ウッドストックでのラヴィ・シャンカール、1960年代後半のビートルズのインド訪問などをきっかけに世界中に知られるようになったインドの伝統音楽。以降、民族音楽ライブやクラブミュージック、ボリウッド映画、インド料理屋さんで日本でも身近に聴くようになったインドの音色たち。もともと声楽から始まったインド古典音楽は、はるか昔から口承で師匠から伝えられ、今もインド国内のみならず世界で進化し続ける世にも稀な伝統音楽と言えます。今回はシタールやサントゥール、タブラなどが使用される北インドのヒンドゥスタニー音楽に注目し、いったいどんなものなのか?あらためて用語から発見してみましょう。 知るとインド音楽がもっと楽しいものになること間違いなし!ユザーンに聞いたターラのミニコラム収録。

インドの音楽

インド伝統音楽には、北インドと南インドの二大潮流があります。どちらもラーガを基本とした音楽ですが、北は宮廷音楽として発達した即興演奏、南は寺院を中心に広がったという歴史を持っています。

ヒンドゥスタニー【Hindustani】
13世紀初頭にイスラム王朝がデリーに成立し、イスラム文化の影響のもとに発展した北インド古典音楽。シタールやサントゥール、タブラなどは主にヒンドゥスタニー音楽で使用される。
カルナーティック【Carnatic】
南インド4州(タミルナードゥー/アーンドラプラデーシュ/ケーララ/カルナータカ)で発展してきた音楽。「カルナータカ」という言葉には、古代の「南インド」「伝統」という意味が含まれる。一連の歴史の中で育まれた音楽と言われている。

インドの音楽基礎知識

インド音楽の基本はラーガとターラ。インドの歴史や風土、哲学にも通じるため、すべてを理解するには難しい概念ですが、基本を知って、インド音楽の世界観を感じてみましょう。

ラーガ【Raga】
旋律を基本とするインド古典音楽の音楽理論にして旋法。ラーガそれぞれに使用する音やメロディーの動き、装飾音など、演奏するための細やかなルールがあり、それに則って即興演奏していく。また、ラーガには演奏するのにふさわしい時間帯やムード、感情があり、そのため聴き手の心に深く影響を与えると言われている。
サリガマパダニサ
【Sa Ri Ga Ma Pa Dha Ni Sa】
インドのドレミ。 基本のドレミに加え、レ♭・ミ♭・ファ#・ラ♭・シ♭を加えた12の音で、ラーガは構成されている。
スワラ【Swara】
音という意味。インドの12の音階を表す。
1 Sa サ(ド) →シャラジ
2 ri (レ♭) →コーマル・リシャブ
3 Ri リ (レ) →リシャブ
4 ga (ミ♭) →コーマル・ガンダール
5 Ga ガ (ミ) →ガンダール
6 Ma マ (ファ) →マディヤム
7 ma (ファ♯) →ティブラ・マディヤム
8 PA パ (ソ) →パンチャム
9 dha (ラ♭) →コーマル・ダイバット
10 Dha ダ(ラ) →ダイバット
11 ni (シ♭) →コーマル・ニシャード
12 Ni ニ(シ) →ニシャード
ターラ/タール 【Tala/Taal】
インドのリズムサイクル。音楽全体の基本を構成する拍子。それぞれの拍子には名前があり、独自のリズム・パターンをもっている。 例→ティンタール(16拍子)/ルーパクタール(7拍子)/ジャプタール(10拍子)/ダードラ(6拍子)他
タブラボル【Tabla bol】
タブラの音の名前。Ge Ka Na Tin Thun Te Dha Dhin Dereなど左手と右手の音を組み合わせて約20種類ほどの音があり、この言葉を使って歌うように、インドのリズムは口承されてきた。
テカ【Theka】
ターラ独自のリズム・パターン。手拍子でも表現される。1拍目のサムと中間のカーリーと呼ばれる部分を持つのが特徴。このリズムを聴きながら、主奏者は旋律を歌ったり奏でたりし即興を展開していく。
Tin Taal
[16拍子/4+4+4+4]
Sam×
Dha
1
Dhin
2
Dhin
3
Dha
4
Dha
5
Dhin
6
Dhin
7
Dha
8
Khali○
Dha
9
Tin
10
Tin
11
Na
12
Na
13
Dhin
14
Dhin
15
Dha
16
テカ【Theka】イメージ

インド人は指でカウントしながら聴いている!

INDIAN MUSIC COLUMN

インド音楽は、どうして変わった拍子で演奏するのでしょう?タブラ奏者のユザーンに聞いてみました。

インド人にとって
変拍子はヘンじゃない?
変わった拍子ですか? うーん、西洋音楽の概念で考えればかなり特殊な拍子のオンパレードかもしれません。ロックでもヒップホップでもJ-Popでも、大抵の曲は4拍子じゃないですか。たまに3拍子系の曲があるぐらいで。だけど北インド古典音楽では7拍子や10拍子などの、いわゆる変拍子が普通に演奏されるんですよ。8.5拍子とか10.5拍子とかの小数点拍子も珍しくないです。最初はどうやってリズムを感じたらいいか戸惑うんですが、慣れてくると気持ちよくて。
インドの人たちが奇数拍子を自由に乗りこなすのって、やっぱり小さい頃からの教育があるのかも。去年、コルカタの公民館で小さな子どもたちの合唱プログラムをたまたま聴いたんですけど、それが「ディープチャンディ」と呼ばれる14拍子で。日本の子どもがそんなリズムで合唱してるの聞いたことないですよね。インドやっぱりすごいなと感じました。日本の小学校でも、変拍子の楽しさに触れられるような授業をもっとやったらいいのになと思います。 談:U-zhaan (タブラ奏者)
ディープチャンディ
14拍子(3+4+3+4)
Dha Dhin - / Dha Dha Tin -
Ta Tin - / Dha Dha Dhin -

演奏の聞き所

ラーガの音の彩りとターラのリズムサイクル。深淵なるインド音楽ですが、この4つのポイントを意識すると、もっと身近に味わうことができます。

サム 【Sam】
インド音楽ではもっとも大切にされ最も強調されるターラの1拍目。インド音楽は1拍目を元に円を描くように演奏される。主奏者も伴奏の打楽器もこの1拍目を目指して演奏を紡いでいく。
カーリー 【Khali】
空、空虚という意味。リズムサイクルの中間。軽い音で表現され、1拍目からもっとも遠いイメージを表す。カーリーからサムへの、遠くから近くへ戻ってくる期待感を感じられるようになれば、あなたもすでにインド音楽通。
ムクラ 【Mukhda】
旋律の歌い出し。ラーガ固有の旋律がはじまるところ。その歌い出しはターラによって変わるが、16拍子の場合は12拍目からになることが多い。
テハイ 【Tihai】
3回繰り返して1拍目に戻るという、インド音楽独特のエンディング。ティハイによって主奏者と伴奏者のソロが切り替わり、演奏を盛り上げていく。

演奏の流れ

インド音楽は独奏からはじまり、リズム楽器が加わって、徐々にテンポを上げ即興を繰り返しながら演奏されます。演奏のパートにはそれぞれ名前がついています。

アーラープ 【Alap】
主奏の独奏部分。ラーガに使われる音と、ムードを一番最初に紹介するパート。インド音楽の巨匠はここでの一音目で観客を感動させることができる。
ジョール 【Jod】
アーラープから続く独奏パート。リズムが刻まれ、徐々にラーガの持つ感情が表現される。
スタイ 【Sthayi】
ラーガの基本となる作曲された旋律。演奏中になんども現れ、ラーガのムードを伝える重要なパート。声楽の場合、バンディッシュともいう。タブラとの合奏の時には繰り返し演奏し、テンポとリズムの周期を表現する。スタイガットとも言われる。
アンタラ 【Antara】
オクターブ上のSa(ド)に向かって展開していくパート。
ヴィランビット 【Vilambit】
独奏が終わり、リズム担当のタブラが演奏に加わってはじまる、ゆっくりとしたテンポの合奏パート。各拍子特有のリズムパターンが展開され、演奏に時間の感覚や、流れる風景のイメージが加わる。
マッディヤラヤ 【Madhyalaya】
マイルドなテンポの合奏パート。弾むような小走りするようなスピード感。
ドゥルット 【Drut】
だんだんテンポがあがり、より早いスピードでの演奏へ。駆け抜ける疾走感の中、即興が繰り返される。
ジャーラー 【Jhala】
インド音楽の演奏中、最もスピードがあがるパート。細やかに刻まれるリズムの美しさを味わう。速さの向こうに新たな地平が見えてきてエンディングへと向かっていく。

演奏のテクニックや用語

ラーガという旋律で表現されるインド音楽は、声楽から生まれ、さまざまな器楽演奏へと発展してきました。声で表現するようなコブシまわしや装飾音、数学的な譜割など、インド独特のテクニックも注目ポイントです。

アーンドーラン【Aandolan】
上の音から主音をゆっくりスライドする動きを繰り返し、主音を強調する技法。音と音の間にも無数の音が存在すると考えるインド音楽ならではの重要なテクニック。
ミーンド【Meend】
ある音から別の音へと、ゆっくりと円を描くように滑らかに移行するテクニック。弦楽器では弦を引っ張って音程を上げ下げするテクニック。チョーキング。巨匠はこのテクニックで観客の心の琴線にふれることができる。
ガマック 【Gamak】
つの音を揺らしながら、自然に次の音に移行していくテクニック。日本でいうところのコブシまわし。心が揺さぶられる表現方法。
カンスワラ 【Kan swara】
強調音の直前に装飾音として小さく鳴らす音。
ムルキ 【Murki】
強調音の前に付ける2音以上の短いターン。
ヴィスタール 【Vistar】
ゆっくりなテンポで丁寧にラーガのフレーズを展開させていくパート。
ターン 【Taan】
速いテンポで織りなされる高速フレーズ。

チャンド 【Chhand】
リズミックパターン。ターラに合わせたリズムを使いテーマを展開する。
ペシュカール 【Peshkar】
タブラソロの一番最初に演奏されるパート。流派ごとに決まった叩き方があり、それを元にソロが即興的に展開していく。高度なリズム遊びに観客が引き込まれる演奏のイントロダクション。
カイダ 【Quaida】
「規則」という意味を持つタブラのソロ演奏法。テーマとなるボルを変化させて演奏する。2行一組で、2行目がカーリーからはじまる。様々なバリエーションを展開後、演奏はティハイで終わる。インドのコンサートでは有名なカイダが登場すると観客がワーワーと騒ぎだす。
レーラ【Rela】
高速のタブラフレーズ。タブラの奏法の中でも一番華やかでテクニカル。
トゥクラ 【Tukra】
タブラの作曲された短い曲。
チャックラダール 【Chakradar】
「くらくらする」という意味。作曲されたタブラの曲で、ティハイの様に3回繰り返して、1拍目のサムに戻る。1回目は表の拍だったのが、2回目は裏拍になったりと聴いていてクラクラするような気持ちになりつつ、1拍目に戻る大団円感が楽しめる。

通っぽいワード

普段の暮らしの中でも良く使われる音楽以外でも使えるインド通っぽいワード。

グル/グルジー 【Guru/Guruji】
師匠。指導者、精神的な教師としてインドではグル/グルジーは、聖なるものの代表として尊敬の対象である。
グルバイ/グルボン 【Gurubhai/Gurubon】
兄弟弟子。グルバイは男性、グルボンは女性を指す。
ガラナ 【Gharana】
流派。様々な地方に様々な流派があり、その流派特有のフレーズや演奏方法、音楽の解釈がある。 例→パンジャーブガラナ ファルカバードガラナ
キャバテ / キャバッ 【Kya baat hei / Kya baat】
最高!を表す言葉。かっこいい演奏やフレーズを聴き感銘を受けた時、思わす漏れるワード。コンサートで演奏者に向かってどんどん使うことで、演奏に磨きがかかる魔法の言葉。
魅惑の!インド音楽ガイド Vol.4参照
プラナーム 【Pranaam】
自分にとって敬うべき相手(両親、祖父母、自分より目上の人、師匠等)に対しての最上級の挨拶。グルの前で屈んで右手で相手の足をさわり、その後、自分の目や額の位置で合掌する。プラナームすることで頭が下がり、その時に自分の中の奢りやエゴも一緒に落として、真っ新な気持ちで教えを受けられるようになると伝えられている。
魅惑の!インド音楽ガイド Vol.4参照
ラサ 【Rasa】
「感情/香り」などと訳され、ある特定の心理的気分や雰囲気を意味する。もともと味覚が出発点になっているとも言われ、何か口にした時に生じる甘い・辛い・酸っぱいなどの感覚を、詩文や演劇、音楽、ダンスなどの芸術を鑑賞した時に感じる気分や感情に拡張したもので、人間の基本的感情を表す。インドでは古い時代から音楽に特定のラサを当てはめる試みがなされてきたという。
1 シュリンガーラ 恋情
2 ハスィヤ 気品、笑い、ユーモア
3 ラウドラ 怒り
4 カルナ 悲しみ
5 ビーバッア 嫌悪
6 バヤナカ 恐怖
7 ヴィーラ 活力、勇敢
8 アドゥブタ 驚き
9 シャンタ 平安、寂静

インド音楽用語と基礎知識は以下の文献やWEBサイトを参考に編集いたしました。